ユトランド半島ドイツとの国境の街ソネボー、そしてオーベンローにある高齢者住宅や福祉施設などをたくさん見学させて頂きました。日本とは政治も福祉の考え方も大きく異なるデンマークですが、人として人生を最後まで心豊かに生きたいと思う気持ちに変わりはありません。

オーベンローにあるグロンネガーデンという高齢者施設は中央の建物（平屋）を囲むように平屋や２階建ての高齢者専用の賃貸集合住宅（52㎡／戸）が建ち並びます。1階の各戸には庭があり植物を育て鳥の巣箱をおいて自然を楽しむことができます。中央の建物には介護が必要な高齢者の方々が住んでいて食事や掃除、洗濯、買い物などの日常生活の手伝いや障害に応じた介護・ケアが受けられます。それら全てを含む月々の家賃は何と6万円ほどで、これは周囲の賃貸住宅も同じ金額なのだそうです。デンマークの高い税金はこういうところで補助金という形で使われています。

その日ちょうど100歳のお誕生日を迎えられた女性のお部屋へおじゃまをさせて頂きました。彼女の名前はエレンさん、中央の建物で一人暮らしています。とてもお元気そうできれいにおしゃれをして椅子に腰かけていらっしゃいました。部屋には娘さんとお孫さん、そしてその息子さんが来られおしゃべりを楽しんでいらっしゃるところでした。その日の午後に市長さんも見えて彼女の誕生日パーティーが開かれるとの事で、部屋にはデンマークの国旗がたくさん飾られていました。

キャシーさん（88歳）は周囲の賃貸住宅で一人暮らしをされています。家賃の中には夕食も含まれていますが、毎週2回配達されるレトルトの食事を温めて食べるのは美味しくないので、今でもご自分で料理をつくり洗濯もしています。やっぱり自分が食べたいものを美味しく食べたいでしょうとにっこり、ご自分をケアすることが彼女の趣味だとも言われました。お部屋には亡くなられたご主人との若い頃のツーショットやご家族のたくさんの写真が飾られていました。

2階の端っこの部屋に住むフィン ニールセンさん（72歳）は7年前に奥さまが亡くなられてからも一人でご自宅（持ち家）で生活していましたが、昨年自転車に乗っていて交通事故に遭い足を悪くされここへ越して来られました。彼は英語も上手でとっても素敵な紳士、ベッドの壁には35年前に娘さんが描いた絵が飾られ、部屋はとてもきれいにかたづけられていました。今はお酒もやめたというフィンさんに趣味は何ですか？と問いかけると、長い返事が返ってきました。

彼はパソコンを使い大好きなチェスを毎日楽しんでいますが、それとは別に一番好きなことは世界の軍隊の歴史について学ぶことだそうで、特に過去に起こった戦争についていろいろ勉強しています。ロシア（旧ソ連）とフィンランドの戦争についても詳しく話してくれました。ご自分の名前がフィン（FIN）さんということもあり、フィンランドに深い関心をもっているようです。今はインターネットの専門サイトやイギリスBBCのテレビ番組から情報を得ているとのこと、ロシア人とフィンランド人の国民性の違いやフィンランド人の心の強さなどを力強く語って下さいました。 そして、人は死ぬまで学ぶことがたくさんあるから、歳をとったからといって時間をもて余すことも孤独になることもないよって明るく笑って話されました。こんな風に歳を重ねることができれば本当に素敵です。

先日ここへ引っ越してこられたばかりのインネさんはとても若々しく知的でセンスがいい女性です。きれいなグリーンのカーデガンがよく似合っていました。彼女は若い頃ジュエリー（彫金）の仕事がしたかったそうですが、ご主人が海軍で働いていたため転勤が多く断念されたそうです。私に好きなことをできる時に精一杯しなさいねと言ってそっと肩をなでてくれました。結局彼女は税関などで事務の仕事をされたそうです。ご主人が亡くなられ、今は大好きな音楽と絵と本に囲まれて一人で暮らしています。

今回お会いさせて頂いた方々はそれぞれ笑顔が素晴らしく、今の生活にとても満足をしている様子でした。施設には猫２匹と鳥が飼われていて、住人みんなのペットとして可愛がられています。中庭には四季折々の花が植えられ、窓辺にも鉢植えがたくさん飾られています。ペットの世話をする、水やりをする、そういう些細なことが実はとても大切で、誰かの或いは何かの役に立つという人にとって大切な気持ちを満足させてくれ、四季を感じることが生きがいにつながるのだろうと感じました。